「バグダッドの太守」序曲  Le calife de Bagdad Overture ボアエルデュー

 フランソワ=アドリアン・ボアエルデューFrançois-Adrien Boïeldieu, (1775年12月16日ルーアン - 1834年10月8日ジャルシー)はフランスのオペラ作曲家・ピアニストである。ボアエルデューはフランス西部に位置するノルマンディー地域圏の首府であるルーアンRouenの出身。彼はルーアン大聖堂の少年聖歌隊に入り、オルガン奏者のプロシュに教育を受けたが、専門の音楽教育を受けてはいなかった。しかし18歳の1793年に地元で発表したオペラ作品が賞賛され、最初の成功を収めたことから、作曲家としての腕を磨くためパリに出た。1800年に発表した喜歌劇「バグダッドの太守」が出世作となり、その他の多くの作品も評価されている。彼は、正歌劇に対して19世妃初期に喜歌劇の様式を確立した1人でもある。

 1803年からサンクトペテルブルグでロシア皇帝アレクサンドル1世に仕え、フランス語のオペラ監督として就任するが、1811年に仏露戦争が始ったため、パリに戻った。

 優雅さと軽快さを持ち合わせた作風から、かつては「フランスのモーツァルト」と呼ばれた。ボワエルデューの作品の特徴は、素朴で自然なメロディーライン、シンプルなハーモニー、そして洗練された管弦楽法といえる。「バグダッドの太守」の他、1825年発表の「白婦人」序曲、ハープ協奏曲などの器楽曲も時おり演奏されている。

バグダッドの太守序曲  Le calife de Bagdad Overture

 バグダッドの太守はクロード・ゴダール・ドクール・ド・サン=ジュスト:Claude Godard d'Aucourt de Saint-Just (1768-1826)による歌詞をもつ1幕物の喜歌劇。彼がフェイドー座(後のオペラーコミック座)にいた1800年9月16日にパリで発表され、ヨーロッパ中で熱狂的な人気を博した。当時、打楽器が特長の東洋を主題とするオペラが流行していたことも背景に、ボアエルデューの最初の成功となった。また、このバグダッドの太守はウェーバー(Carl Maria von Weber)の歌劇オベロン(Oberon, or The Elf King's Oath)やアブ・ハッサン(Abu Hassan)に影響を与えたと考えられている。

 しかしこの時、観衆の1人でもあった作曲家L・ケルビーニ(Luigi Cherubini, 1760年9月14日フィレンツェ - 1842年3月15日パリ)がいて、ボアエルデューに対し「この程度の評判で、大成功とするには恥ずかしくないか」と非難した。ボアエルデューはすぐにケルビーニに作曲技法を教えてもらっている。現在このバグダッドの太守はオペラとして上演されることは、めったにないが、序曲は広く知られていて、特に編曲されたマンドリン曲で、しばしば演奏されている。

 原曲は2管編成(金管はホルン2本)の簡潔な編成であり、ジュニアオーケストラ用の曲目として用いられている。マンドリンへの編曲は作曲家のマチョッキや宮田俊一郎、小穴雄一、久保田孝、松本譲などが手がけている。

バグダッド

 現在のバグダッドはイラクの首都で同国最大の都市だが、その歴史はメソポタミア文明にまでさかのぼり、サーサーン朝時代にはチグリス河畔の農産物の集積地として食料事情に恵まれ、交通の要衝であることから周辺地域の物流の中心となった。都市名のバグダッドはペルシア語で「神の贈り物」を意味する。762年にアッバース朝の第2代カリフ、マンスールによって都に定められ、北アフリカから中央アジアに至る広大なイスラム帝国の中心にふさわしい新都として、直径2.35kmの正円の城壁を持った都市が建設された。アラビア語で「平安の都」を意味するマディーナ・アッ=サラームの名も与えられたバグダッドは中近東の代表的な商業都市として栄え、市街地は城壁を越えてチグリス川の対岸まで大きく広がった。

 アッバース朝の最盛期を築いたハールーン・アッ=ラシードの時代から数十年のあいだ繁栄を極めたバグダッドの人口は100万人を越え、イスラム世界の学問の中心地として各地から多くの学者が集まり、千夜一夜物語の舞台にもなった。(Wikipediaなど参照)

【オペラのあらすじ】

 バクダッドの太守イサーン(Isaoun)は自由に街を歩き回ることができるように変装して、名前もイル・ボンドカーニ(Il-Bondocani)と変える。その2ヵ月前に事件があって、山賊の一団からバクダッドの若い娘ゼチュルプ(Zetulbe)を救い出していた。

 イサーンはこの娘と恋に落ちるが、見掛けの悪い粗雑な振る舞いの男を見て、母親レメイド(Lemaide)は結婚に反対する。また、彼が宝石箱を持ってくるようにお供の者に言いつけると、彼女は「この人も山賊か!」と思って驚いてしまう。話を聞いた隣人が警察に通報する。警察はドアを壊して突入、逃げるイサーン。と色々な出来事があるが、最後に太守は正体も明らかにしてゼチュルプと結婚できることになった、というストーリーである。

 この序曲の中にもそういった場面のモチーフがいくつも出て来る、楽しい曲である。

(画像は「バグダッドの太守全曲」を演奏しているレコードのジャケット)

演奏時間

 マンドリン演奏では8分40秒くらいが多いが、イスラエルのシンフォネッタ・ラーナナ・オーケストラ(2015年)は7分20秒、齋藤秀雄指揮、新交響楽団(1938年 コロンビア版)では6分40秒で演奏している。