基準音程、音階、音律

基準音程

 基準音程のA=440は1939年にロンドンの国際会議で440と決められたもので、イギリスやアメリカでは440もあるようだが最近は日本をはじめ442が多くなっている。ヨーロッパではウィーンフィルやベルリンフィルの444~445など、もっと高いオーケストラもある。

基準音程の変遷
 1939年以前のヨーロッパ音楽やバロック時代は様々なピッチが使われていた。1859年のパリでの会議、1885年のウィーン会議ではA = 435 Hzを標準として定められている。また調律もギターやリュートは平均律が多かったと考えられているが、鍵盤楽器ではピタゴラス音律や中全音律(ミーントーン)を用いていた。

 現在でも古楽器による演奏ではバロックピッチ(カンマートーン)呼ばれる基準音程A=415を使ったり、フランスバロックではA=392を使い、古典調律で演奏することもある。2018年9月にショパンの生きた時代のピアノ(ピアノフォルテ=ピリオド楽器)による第1回コンクールがあり、日本人の川口成彦が2位となっている。このピアノは現代のピアノに比較して鍵盤は軽く、色々な響きを出すことが出来る。

 1815-21年のドレスデン歌劇場の音叉はA=423.7Hzであった。また、ロックバンドでは半音近く下げることもある。ロックミュージックで使われるエレキギターのエフェクターに「コーラス」や「ハーモナイザー(ピッチシフター)」があるが、これはピッチを微妙にズラして音がコーラスのように豊かになる効果を狙っている。エレキギターではチョーキング(ベンディング)もよく使われる。

鍵盤楽器や和楽器の音程
 グロッケンシュピールやシロフォンなどの鍵盤楽器は最近A=442を基準とした平均律で作っているのが多いようだ。これらの楽器が入る場合はピッチを確認し、これに合わせておくことが必要である。
 和楽器での三味線は唄の伴奏が多いため、歌い手に合わせて調整することもあり、基準音程というのはあまり考えない。演歌の「こぶし」は一つの音の中で微妙に高低を付け表情を豊かにしている。雅楽ではA=430が本来の伝統的なピッチだが、笙などが西洋音楽と競演する場合は442に合わせた楽器を使う事もあるそうだ。

  十二平均律がヨーロッパで考えられたのは1636年、一般に広がり始めたのは1849年のショパンあたり、十二平均律の特性を生かした初めての作曲家はクロード・ドビュッシーから、シェーンベルクが十二音技法の作曲方法を提唱したのは1921年である。マンドリン合奏でヴィヴァルディなどバロック時代の曲を取り上げることがあるが、ピッチを415や392にして演奏したというのを聞いたことがない。マンドリンやギターは古くから平均律のフレットであり、古典調律で演奏することは出来ない。

 

音律、音階

 世界には近・現代西洋音楽の長調、短調だけでなく様々な音律、音階、旋法が存在する。すなわち、日本の伝統音楽(五声:ペンタトニック 七声 陽旋法 陰旋法)、インド音楽(7音音階のメーラカルタ)、インドネシアのガムラン(スレンドロ)、タイ王国古典音楽(7平均律)、トルコ古典音楽(9:8の音程比)など。西洋音楽の長調であるドレミファソラシドは教会旋法のイオニア旋法だがそのルーツは『聖ヨハネ讃歌』のイタリア語の歌詞の各節の歌い出しの音からきている。

 西洋音楽も、イオニア旋法以外の教会旋法、6全音階、12音階(ドデカフォニー)、ジャズで使われるブルーノーツ、7音のミクソリディアンスケール、スパニッシュ8ノートスケール、更には微分音音楽(Microtonal music)などがあり、世界の音楽は様々である。マンドリン合奏の演奏会にはクラシック音楽、マンドリンオリジナル音楽、各国の民族音楽、現代のポピュラー音楽や演歌など様々なジャンルの音楽を取り上げることがある。音楽を演じる上で音程は実際に弾いてみて、聞いて美しいかどうかが大切なことは言うまでもない。

 

弦張力と音程の劣化

 マンドリン族は金属弦が通常8本あり、張力が強い。そのため、弦の巻き方が悪いと演奏中に音程が低下しやすい。また長期の演奏による経年劣化を起こし易い。特に駒にかかる力が表面板を陥没させ、正しい位置に駒を安定させることが出来なくなる、これを防ぐために通常は表面板に折り山があり、しっかりした力木で表面板を支えるようにしてある。しかしながら、表面板は薄く、駒は小さい方が音は大きく聞こえることも確かである。表面板が陥没した場合には修理は困難になる。一部の業者で大きな駒に付け替えることを薦めているのは表面板の陥没を防ぐためと思われる。強い弦張力によりネックも反りやすい。ネックは一本棹と接ぎ棹の2方式があり一本棹の方が強力で経年劣化しにくいといわれるが、指板の種類や厚さ、ネック材の種類、継ぎの方式、補強材の使用などによっても異なる。(マンドリンの構造と各部機能でのジョイント・指板・フレット参照)

 数年の使用で音程が不安定になる楽器もあり、美しく聞こえる良いイントネーションを追求することが困難となる。音程の劣化した楽器でのアンサンブルは聴くに堪えないと、マンドリン合奏は大編成に向かないという人もいる。

楽器の性能と管理 

 本来、木製楽器は長期間使用することで木質が硬化し、いわゆる「エージングにより性能が上がる」のだがマンドリン族の楽器で長期間にわたり音程が合い、マンドリン合奏を楽しむためには、こういった楽器としての特徴を知り、楽器を健康な状態に保つことが大切である。
 マンドロンチェロは製作者の努力により性能の高い楽器が出来つつある。これに応えるようにマンドリンオーケストラでの地位の向上が認められる。また、マンドロンチェロの独奏や合奏も聞かれるようになっている。しかしながら現状の合奏では低音のC線の音に雑音の聞こえることが多い。マンドリン族の調弦