ポルタメント

 ポルタメントは二つの音の間に含まれている音の一部を演奏しながら滑らかに次の音に移る方法。この奏法は普通指定されないことが多いが、Por、波線、直線、あるいはスラーで表わすこともある。トレモロの場合は右手が滑らかにトレモロを奏している間に二音間を左指で移動する。音符の時価は正確に守り、トレモロは途切れないようにする。
 竹内郁子は同じ音を、指を変えて少し低い音からポルタメントをかける奏法を使っている。演歌で聞かれる「しゃくり」と似ている。

 ポルタメントは旋律を情感豊かに歌うために使用されるが、乱用や掛け方によっては悪趣味となる。

 ポルタメントはその芸術的表現を引き出す手段として、ヴァイオリン系の擦弦楽器ではヴィブラートと並んで、最も大切な左手の奏法のひとつであり、また奏者の感情が音として非常に現れやすい。マンドリン系の撥弦楽器ではヴィブラートはピッキングでしか使われないのでポルタメントはより重要と言えるだろう。

 以下の文章はカール・フレッシュのポルタメント論に関する考察― 弦楽器指導におけるポルタメントの基礎的研究―高旗健次から一部を要約して紹介する。
ポルタメントの定義
 標準音楽辞典によればポルタメントは声または擦弦楽器(等)で、ひとつの音から他の音へ移るとき、跳躍的あるいは音階的でなく、音を滑らせてなめらかに演奏すること、とある。
ポルタメントの種類
 音の跳躍が2度、3度など少ない場合は同じ指で行われる。跳躍が大きい場合でも可能。

ヴァイオリン系の擦弦楽器では押弦する指を変える場合、以下の2種類がある。5度の跳躍の場合を例とする。マンドリン系の楽器では跳躍したポルタメントの場合、間の音をトレモロで繋げる場合はフレットがあるため個々の音が出るグリッサンドとなる。しかし、幅広く跳躍する場合の指使いと表現方法として参考になる。

①最初に押さえた方の指を滑らせて、後の音を取る方法
 カール・フレッシュはこれをAポルタメントと呼んでいる。AはAnfangsnote(最初の音)の意味。

②後に到達する方の指をそのまま滑らせて目的の音へ到達する方法
これはEポルタメントと呼んでいる。EはEndfinger(最後の指)を表している。

上記は上昇音型の場合だが、下降音型も同様に2種類がある。
Aポルタメントの例

 下降音型でのEポルタメントの例

AポルタメントとEポルタメントの組み合わせもある。
これらは曲想や演奏者の個性的な感情によって、さまざまなパターンが創られる。

ポルタメントの及ぼす感情表現
 上昇音型は一般的に気分が高揚する。ここにAポルタメントが加わると弾むような精神的高揚が表現できる。
これに対し、Eポルタメントの場合は下部に潜んでいたものを上部に押し上げるため、気の重さやけだるさ、悲痛な叫びを表現できる。

ブラームスのヴァイオリンソナタの例は奏者によって、歓喜と受け止めたり劇的とも受け止める。このときAポルタメントを用いるかEポルタメントを用いるかは演奏者の個性や感情により自由だと言える。
 しかし、Eポルタメントは官能的とも言え、無神経に多用することはクラシック音楽での楽曲の品格を奪い、ポップス風やジャズ風になるので避けるべきであり、重要なことは、奏者自身がまず、それぞれのジャンルにふさわしい奏法や表現力を使い分ける能力を身に付けることである、とカール・フレッシュは主張している。

グリッサンド

 ある音からある音へ進む場合、中間の音を全て鳴らしながら指を滑らせる方法。右手のトレモロは二音を弾く間は途切れないこと、左指は変えないことが原則だが、時として指を変えることもある。二音間を直線、波線またはglissなどと記入する。

カラーチェ「ナポリ風狂詩曲」の下降グリッサンド(最高音から最低音までのグリッサンド)弦の変わるところを素早く滑らかに繋げるようにしたい。

  グリッサンドとポルタメントは混同されることも多い。メッツァカーポの「VISION(幻影)」にはグリッサンドの指示が多く記載されているが、そのほとんどはポルタメントとして弾いた方が良いと思われる。譜例は3度の跳躍の例だが、トレモロで繋げるとグリッサンドとなる。

 一般的にグリッサンドは初めの音から終わりの音まで途中の音の間隔を一定にして弾くが、ポルタメントは次の音に移行する直前に指を滑らせる。弦をまたぐようなグリッサンドやポルタメントの記された楽譜もあるが、演奏者としては音の始まりと終わりのところで小さな音のズラシを付けることだろう。

ヴィブラート

 ヴィブラートはピッキングでの表情を付けるのに有効であり、特に音価の長い場合に有効。持続も多少長くなる。ただし、ヴィブラートの掛け方はセンスも問われる。フレット楽器のイントネーションの悪さがヴィブラートにより多少改善される。

休符とフレージングへ)